Beyond the shelves: the true value of inventory accuracy for retailers

デジタルIDが拓く小売の未来
~透明性と持続可能性で考える消費者との新たな関係~

はじめに - 小売事業者と消費者に求められている変化

デジタル技術の浸透により、消費者は商品検索から購入までをオンラインで行うのが当たり前になった。経産省調査でもBtoC電子商取引市場は2019年の19.4兆円から2023年に24.8兆円へ拡大し、食品など従来EC比率の低かった分野でも伸びが顕著だ。

デジタルテクノロジーが消費者の購買活動に広く普及するということは、同時に、あらゆる情報に消費者が触れる機会ができるということでもあり、流通に関わるあらゆるデータも取得・活用できるようになる、ということでもある。

デジタルによって購買する商品やチャネルの選択肢が増えた一方で、「消費者は知らないメーカーの商品にも出会い、購入してみたら粗悪品や偽物であったり、気づいたときには不正流通に加担していた、という状況にもなり得る。企業(メーカー/小売)側としては、今まで存在さえ知らなかった外国企業や小規模企業の価格の安さや質の高さにシェアを脅かされる事態になる。消費者はこれまで以上に商品の安全性や正当性に配慮して購買をし、企業側はより自社商品の透明性を高め、価格以上の価値(安全性や正当性、サステナビリティやこだわり)を訴求し、消費者の共感を得る必要に迫られている。

オンラインで注文をすることで、最短で当日配送をしてもらえる便利な世の中であるが、2024年問題として注目された日本の物流課題は2025年の今も大きな解決の動きは見せておらず、10年後にも現在の配送の仕組みがそのまま機能しているとは信じがたい。企業はデジタルが普及したからこそ、このテクノロジーを使って消費者と協力体制を築き、将来にわたって持続できる小売の仕組みを共創していかなければならない状況にある。

変化する小売に求められるRFIDソリューション

消費者の購買行動や価値観が大きく変化するなかで、企業には商品の透明性やサプライチェーン全体での持続可能性を高める取り組みが求められている。こうした変化に対応するために、当社Avery Dennison Smartracは、RFIDをはじめとするデジタルID技術を軸にしたソリューションを開発・提供している。 本稿では、これらのデジタル技術を通じて、グローバルの事業者が製造から販売に至るまでどのように消費者との新しい関係を築いているのか、その事例をご紹介したい。

商品の透明性を高めて共感を得る

  • サステナビリティの取り組みを開示する

2022年のBAIN&COMPANY「日本とアジア太平洋地域における消費者のサステイナブル意識調査」では、消費者の8割以上がプレミアム価格を支払ってもサステナビリティに配慮した製品を購入したいと回答するなど消費者の透明性やサステナビリティへの関心は高まっている。これを受け、一部の企業は製品のライフサイクル全体におけるトレーサビリティの確保と開示を進めている。

欧州の香水ブランドであるBastilleは、RFIDタグとQRコードを組み合わせて製品に取り付け、原料の原産地、瓶詰めをした日、香りの価値や組成、サステナビリティの詳細といった情報の提供を実現した。

また、欧州では、バッテリー、繊維製品、建設資材などの特定の製品を対象とした、デジタルプロダクトパスポート(DPP)の検討も進んでいる。これは製品に関する詳細な情報をデジタル形式で提供するもので、消費者はスマートフォンなどでタグをスキャンするだけで、製品の組成、修理可能性、リサイクル方法などを確認できることを要求するものだ。これにより、製品の廃棄物削減やリサイクル促進、ひいてはサーキュラーエコノミーへの貢献を目指している。適用開始時期は未定だが、既にRFIDとQRコードを組み合わせ、対応の準備を進めている企業もある。

  • 商品の安全性を担保する

また、消費者は製品の安全性に対してこれまで以上に高い関心を持つようになっている。消費者庁の「令和6年度消費者意識基本調査」によると、表示や説明を十分確認し、その内容を理解した上で商品やサービスを選択する人が増加している。万が一、製品に問題があった場合、迅速かつ正確なリコール対応は企業の信頼を維持する上で不可欠だ。RFID技術は、このリコール管理においてもその真価を発揮する。

米国の大手メキシコ料理チェーンであるChipotleは、2016年に食中毒の問題を起こした後、提供する食材の収穫時点からRFIDタグを付与し、原材料の調達から流通、そして店舗での提供に至るまでのトレーサビリティを実現している。これにより、問題のある製品を即座に特定・回収でき、被害拡大を防ぐと同時に、”Food with Integrity”を謳う同社のブランドイメージを強固なものにするツールとして活用している。

このように、リコール管理は単なる問題解決にとどまらず、消費者の安心と信頼を確保するための予防策としての役割も期待されている。

  • 購買の安心を保証する

オンライン市場の拡大は、消費者にとって新たな選択肢をもたらす一方で、模倣品や不正な製品が流通するリスクも高めている。

企業はRFIDで不正流通を監視するとともに、消費者にはスマホで流通経路や真贋を確認できる仕組みを提供することで、ブランドの信頼性を高め、消費者の信頼を獲得することを可能にしている。カナダの化粧品ブランドは、RFIDを用いてサプライチェーンを可視化し、不正流通に加担した代理店を排除するなど、不正流通の防止に取り組んでいる。

これらの情報は企業が一方的に取得・提供するだけでは本来の価値を発揮しない。企業はこうした取り組みを自社内に留めることなく、自社の取り組みを積極的に消費者へ発信し、自社の取り組みに共感してくれるファン(消費者)を増やしていく必要がある。また、消費者自身も、企業の提供する情報を理解し、正しい選択をできるように共に成長していくことが求められる。

持続可能な小売事業を共創する

  • セルフ決済を容易にする

セルフレジは、消費者が小売店の持続可能性に貢献する一例である。レジ待ちの列やレジ業務の人員確保は日本でも課題で2023年の調査によると「小売業の欠員率は全産業の合計を上回っており、人手不足が深刻かつ常態化している」。さらに人気店であればあるほど長いレジ待ちの列が発生し、列を見て、買い物を諦める消費者が出るなど売上機会の損失につながっている。

日本の小売店でもセルフレジの導入が広がっており、スーパーマーケット年次統計調査では2024年に設置企業の割合が37.9%にもなっている。

セルフレジといえば、RFID技術を全面導入したユニクロのセルフレジが有名だが、バーコードスキャンを消費者に求めないという点で操作のしやすさと決済までの早さを実現している。

米国アマゾンが開発・運用するJust Walk Out(JWO)はその名の通り、「歩いて出るだけ」で決済を可能にしたソリューションだ。RFID技術を活用した新しいJWOは消費者がRFIDタグの付いた商品を手にゲートを通過するだけで、持っている商品を特定し、決済をすることができる。特に休憩時間に大量の客が殺到するスポーツスタジアム内のショップへ導入され、売上機会の獲得につながっている。

消費者が決済という業務を請け負うことで店舗側の負担を削減することが可能になるだけでなく、処理能力を上げることで売上機会の向上にもつながる。

  • 店舗での購入を促進する

日本では、スーパーやドラッグストアなど、オンラインで注文を受け、自宅に配送するサービスに力を入れている企業が多い。また、ECも含めて無料配送の対応も多い。利便性と価格の競争が高まる一方で、配送リソースの確保、収益性の確保など、サービスの持続的な提供が課題だ。

購入したい商品をGoogleで検索すると、検索結果の広告にオンラインショップの取り扱い商品が表示される機能は、日本でも多く活用されている。アメリカではGoogle検索の結果として、一部の小売店の商品は店舗在庫の有無が表示される。クリックするとブランドサイトに飛び、店舗での取置・ピックアップ、配送などを依頼することができる。これはGoogleのLocal Inventory Ads(LIA)というサービスで、消費者の来店を促すソリューションとしても注目されている。

一方でこのようにデジタルで店舗の在庫有無を開示しようとすると、当然在庫精度の重要性が増す。オンラインを通じた購買機会の拡大、関連する作業の効率化を目的にRFIDを使用して在庫精度の向上に取り組んだのがWalmartだ。Walmartは、2020年にアパレル部門でRFIDの導入を義務化し、在庫精度の向上とオンライン販売のオムニチャネル対応を強化した。その後、住宅用品やエレクトロニクス、玩具など複数のカテゴリにも2022年9月までにRFIDの義務化を段階的に拡大。こうした動きはCOVID-19 によるオンライン購買急増への対応とも整合しており、顧客満足度維持と店舗・物流オペレーションの効率化への逼迫が背景にあったと推察される。

オンラインで近くの店舗の在庫を開示し、購入したい商品が確実にあることがわかれば、消費者自身が店舗に足を運びやすくなる。配送という小売店の業務負荷を軽減するだけでなく、小売店の売上機会の向上にもつながる。

  • 購入を待つ選択肢を提示する

多くの小売店は店舗の在庫を切らすことを恐れている。在庫が切れることで売上機会を逸することを避けたい一方で、在庫を持ちすぎることも恐れている。そのため、小売店への物流は少量多品種を高頻度で配送することが一般的で、オンライン購買の増加による宅配業者の負荷増加とあいまって、物流機能の将来に向けた懸念は高まっている。

先述のWalmartは、RFIDも活用して取得した在庫情報を社内だけでなく、サプライヤーにも開示している。サプライチェーン上流での変動幅を抑制し、必要以上の補充や欠品を防ぐ効果が注目されている。

IBMは、リアルタイムな店舗および流通在庫の可視化が、消費者の購買体験を向上させつつ、欠品・過剰在庫の双方を抑制する仕組みとして有効であると指摘している。また、MoldStudの実証では、在庫透明化により在庫誤差が30%減少し、フルフィルメント精度が25%向上したという数値が提示されている。

これらを踏まえると、対象商品を限定した上で「流通在庫と納入予定を消費者に開示し、“購入を待つ選択肢”を与える設計」は、物流負荷の軽減と販売機会の最適バランスを実現しうる現実的な解となる可能性がある。

こうした「待つ」選択肢は、オンラインショッピングの配送という領域では実現しつつある。国内でもファッションEC大手のZOZOは、「ゆっくり配送」オプションを提供している。消費者があえて“待つ”ことを選ぶことで配送回数や梱包資材を減らし、持続可能な物流につなげる取り組みだ。国内外で共通して、消費者に“待つ”という選択肢を提示する仕組みが広がりつつあることは注目に値する。

米国では、同日配送サービス大手Dropoffが「Order Consolidation(統合注文)」によって配送回数を減らし、包装資材を約30%削減する成果を上げている。RFIDを全面的に導入しているUPSも、CommerceHubとの提携を通じて、同じ宛先への別の注文を確認できるまで、システム上で注文を最大で12時間保留する(消費者に待ってもらう)ことで、「配送密度」の向上に取り組んでいる。

MITの調査では、購入時に「木をいくつ節約できるか」といった社会的インパクトを提示することで、70%の消費者が最大5日間の配送遅延を受け入れたことも報告されている。

これらは、すべての注文を即日/翌日に届けるという前提から一部を意図的に“緩める”ことで、物流の過負荷を抑え、持続可能性を高める仕組みが現実的に機能し始めていることを示している。日本市場においても、こうした「待つ」選択肢をどう消費者に提示するかが、今後の重要なテーマとなるだろう。

海外で提唱される小売のキーワードは、日本でも追って広まる傾向にある。例えば「BOPIS」は米国で普及後、数年遅れて日本でも一般化した。先述した海外の事例は、決して対岸で燃えて鎮火する火事ではなく、数年後に日本市場も直面するトレンドにほかならない。本稿が、日本の小売市場で先進的な仕組みを先んじて開拓していこうとする企業の皆様の参考となれば幸いである。

Avery Dennison Smartrac
三井 朱音 マーケットディベロップメントディレクター
三澤 明希子 マーケットディベロップメントマネージャー

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